SSブログ

■『11時間 お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか』 江花優子 [書評]

書評
『11時間 お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか』
江花優子
小学館 2007年

11時間 -お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか-

11時間 -お腹の赤ちゃんは「人」ではないのですか-

  • 作者: 江花 優子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 わが国における堕胎罪成立は、1869年に明治政府が堕胎禁止令を出したのが最初とされる。その当時の時代背景からすると、堕胎罪の意図するものは「胎児という生命そのものの尊重、保護」というよりは、富国強兵策に則ったものであるように思える。キリスト教と家父長制の価値観から堕胎を禁止する欧米列強をまねて、近代社会の体裁をととのえる。また家制度存続のためにも、必要だと考えたのだろう。
 堕胎罪そのものの持つ問題点は、やはり何と言っても堕胎を例外なく禁止していることにあろう。これに対し、「遺伝的に劣勢の子を産むのは…」という、優生思想とも相成った考えから、1948年に優生保護法が制定される。戦後すぐの制定。食糧不足などにより子どもを減らす必要があったこと、そして女性の権利尊重、地位向上が徐々に言われ始めるといった時代背景ともマッチする。
 その後、1996年に母体保護法へと変わり、原則として中絶が認められるようになった。堕胎罪は形骸化したものの現在まで残っている。
 また、堕胎罪は堕ろす女性の罪を問うているものの、妊娠させた男性側の罪悪にまでは踏み込んでいない。また、堕胎罪だけが適用された場合、レイプなど女性が意図しない妊娠についても堕胎が犯罪となってしまい、やはり堕胎罪には問題が多いと言えよう。
 一方で、今日のコラムで小生が指摘したとおり、現在は少子化が叫ばれる一方で安易な妊娠、中絶があまりにも増えすぎている。日本は、韓国とともに「堕胎天国」とまで呼ばれ、年間の中絶件数は統計にあるだけで約30万、実際はその倍とも言われている。単純計算だが、昨年(2006年)のわが国の合計出生数が109万人と考えると、4人に1人の子はお腹から外に出る前に命を落としたということが言える。
 同じ「中絶天国」である韓国の場合は、儒教思想により男子を後継ぎとしてほしがる(つまり生まれてくる子が女と分かった時点で堕胎する)ということが堕胎の主な理由なので、医療現場に周知徹底して法的取り締まりが可能となる。では、わが国の場合はどうか。まずは、お腹の中の赤ちゃんへの「崇高な命」という意識を持つことが、如何なる中絶理由に対しても原則必要なのではないか。産む女性を支える体制と、男性の理解、そして恥ずべき話だが安易な性交渉への警鐘…これらが次に必要となる。
 下世話な次元で「日本人は元気がない」と言われるが、実際そうでもない。中絶から少しでも多くの命を救うことができれば、それだけでもだいぶ違ってくると思うのだ。産んだ、その後のことも勿論考えていかなければいけないのだが。

 ところでこの本、一つの事例から端を発した問題提起が2章ではより広義に発展させていき、
次々と調べながら託す思いを強くしていき、あれもこれもと目を向けつつ、
根底での問題意識はゆるぎなく強く持ち続け、「お腹の赤ちゃんは人ではないのか」と
探求し続けていく。この姿勢はジャーナリストとして敬服したい。


nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。