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■『都立大学に何が起きたのか』/茂木俊彦 [書評]


★都立大学に何が起きたのか
 ~総長の2年間~
 茂木俊彦  岩波ブックレット
 2005/09・第一刷発行

年末にこの本の存在を知り、神保町でゲット。で、その日のうちに読了。

こんな本が出ていたとは、知らなかった。
これは全都立大生必読の書だと思う。

前総長、いや、東京都立大学最後の総長である、茂木俊彦先生があの騒動を振り返って
出来事や心情を淡々と述べている。

予めお断りしておくが、これは都立大問題を知らない人が読んでも何の面白みもない
退屈な時間を過ごすだけの本なので、オススメはしない。
もう少し茂木先生に文章力があって(失礼!!)、人脈もあれば(失敬!!)、きっとこの本は
『メディアの支配者』的な仕上がりになって、一般読者にも手の届くノンフィクション作品として
店頭に並んだであろう。
このブックレットという薄さからも、1時間で読みきれる程度の
内容からも、実に「落ち武者」的臭いがプンプンと立ち込めるのである。

なんて失礼な評価はあくまで一般論として。一都立大生としては、これはもう
実にやりきれない思いがジワジワとこみ上げてくるのである。
読み終えた頃には思わず障子をナニで突き破りたい衝動に駆られた。なんていうのは
冗談だが…(この高等なジョーク、通じるだろうか。え?ただの下ネタか??)

多分これを知らない都立大生はいないと思うが、一連の改革の流れは
ものすごく大雑把に書くとおおよそ以下の流れである。

1990年頃~ 移転を契機に都立大の構成をいじろうという動きが加速
                  ↓
         都大学管理本部と都立大が協議を進める
                  ↓
        石原就任後、彼の色を加えた改革が企てられる
                  ↓
        都側と大学側が仲良くできず、都が強硬手段に(8.01の乱)
                  ↓
        大学側が抵抗するも、挫折。首都大学東京開学

本書は特にこの中でも茂木氏が総長に就任した2003年の8月、歴史的暴政が働いた日とも
言われる8.01の乱から04年の卒業式の祝辞を読み上げるまでのおよそ一年半を、時間に
従って出来事を振り返りつつ、心情を所々述べているわけであり、実に面白い。
こうして読んでみると、やはりトップに立つ人間としては当然のことなのかもしれないが、実に冷静に状況を見極めているという印象を受けた。本当は苛立ちや怒りや悲しみといった感情もあるのだろうが、それを抑えての実に冷めた鋭利な目が都職員のいい加減ぶり、横暴ぶりを描写している。特に、「都立大が出した文章に対抗するかのように科技大・保健大・短大の連名で出された文章には自作自演ぶりを感じた」という箇所については、言葉の言い回しや語句の使い方から「メンバーに名を連ねる役人の自演だ」と見抜いている。これは秀逸だ。

しかし、これほど冷静で秀逸な茂木総長だからこそ、「それでも何故都庁の暴政を抑えることができなかったのか」という疑問はどうしても持たずにいられない。
2004年の初頭~中盤あたりまでは完全に都立大ペースであり、「就任拒否」という最終カードを握った都立大教職員組合側が完全有利であるかのように見えた。しかし、何故敗北してしまったのか。これについてはこの本の記述だけでは解明することができなかった。兎に角分かるのは都側の横暴ぶりと茂木総長の冷静・達観ぶりである。

結局、ご存知の方がどれだけいるか知らないが、都立大職員の半数は首都大に屈し(という言い方は語弊があるか?)、抵抗をやめて首都大に就任した。かといって非就任者が偉いかといえばそういうわけでもないと思う。
ある英語科の教授が非常に説得力のある、また頼もしい意見を言っていたのでここに転載したく思う。
「自分はクビダイ(※首都大学東京、略して首大のこと)に何の愛着も思い入れもない。従って就任するつもりはない。しかし、『クビ大反対!就任しない!』と偉そうに都立大を去っていくのも違うと思う。取り残された都立大の学生はどうなるのか。学習環境の保障を言った以上、最後まで責任を持って送り出すのが筋だろう。だから自分は残る。」

このように、とある英語科の教授は語っていた。至極全うな理論である。首都大に変わったとはいえ、2年生以上の都立大の学生がまだ残っているのである。

ちなみに首都大のクオリティは「中身は河合塾に丸投げ」「教授が集まらなくて経済学コースは初年度募集中止」程度である。

ただ、茂木総長の主張に同意しかねる点もあった。例えば単位バンク制の危険性を論じていたが、これはド素人の、というか学生立場の小生としては、それに反対する理由がいまいち納得できない。自分の大学にない講義や外での体験学習、実習、ひいては自主的な留学までもを単位として認め、自由で幅広い、活動的な学習を支援しようというものだから、問題はないように思う。事実、近隣の大学でも、中大や大妻、恵泉などで単位互換を実施しているし、こうした取り組みは全国的に見られ、問題どころかその利点が注目されている。
これについては読んでいるとやはり「利権」とか「古いしがらみ」とかいった大学の保守的要素を垣間見てしまった。この部分についての印象が強かったから、小生は当初、改革には希望的観測を持っていたのである(今にしてみるとそれは大いなる誤算だが)。

兎も角、既に知っていたこと、新たに知ったこと含め、この本をざっと読むと「都立大改革、あれは何だったのか」ということが実に分かりやすく順を追って理解することができる。
冒頭にも述べたが、都立大生は必見の書だと思う。

都庁の1階にも是非置いてほしいね。

都立大学に何が起きたのか 総長の2年間

都立大学に何が起きたのか 総長の2年間

  • 作者: 茂木 俊彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/09/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


メディアの支配者 上

メディアの支配者 上

  • 作者: 中川 一徳
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/07/01
  • メディア: 単行本


メディアの支配者 下

メディアの支配者 下

  • 作者: 中川 一徳
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/07/01
  • メディア: 単行本


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コメント 8

ゴクウ

ヨンさまのインパクト凄いです!
都立大学…深いですね。
by ゴクウ (2006-01-04 17:09) 

俺

こんばんは。ヨン様の前は金剛地だったので、これでもまだインパクトは薄まっているかと…
都立大(首都大)、深いというか、不快な大学です。全国の高校生諸君にはオススメしません。
by (2006-01-05 01:12) 

ごん

こんばんゎ!!そしてはじめまして☆
正直この記事を読んでショックを受けました…
僕ゎなにを隠そう…首都大を第②志望に置いているのです!!
しかもこの時期にきて模試の判定が第①志望Dでしたから
かなり首都大に気持ちが傾いてきています…
そんなときにこの記事をみてかなりショックΣ( ̄□ ̄/)/
そんなにオススメできないような学校なのですか??
今年から新設される〝インダストリアルアート〟志望なのですが…
もしよかったらアドバイスください(_ _)
今そーとーなやんでいるんです↓↓
by ごん (2006-01-05 01:25) 

俺

取り急ぎ…

>ごん さん
はじめまして。小生は都立大夜間に通う3年生です。今年受験なのですね。頑張ってください!
さて本題ですが、センター試験の間近に控えたごんさんに動揺を与えてしまったことを申し訳なく思います。ただ、建前は抜きに首都大の現状を述べますと…

実際今年度から始動した大学なので、そもそも一年目から完璧に動くこと自体難しいと思います。なので、来年、再来年と年を重ねるごとにどんどん良くなっていくとは思います。
しかし、当記事で述べたとおり、或いは他の記事でも書いてますが、
http://blog.so-net.ne.jp/metro/2005-12-07
首都大は設立に際してかなりのいざこざがあったので、その残骸と申しますか、例えば教授が揃っていない学部があったり、都の計画自体が無謀で到底実現できそうにないものがあったり。そして(これは首都大に限らずどこの大学も同じみたいですが)事務職員は最悪です。
ただ一つ安心していただきたいのは、「インダストリアルアート」というのは工学系ですよね?首都大は文系は総じてボロボロなのですが、理系は割とまともだそうです。
小生は文系の学部にいるのであまり実情を知らないのですが、旧都立大の売りが人文学部だったのに対し、今の首都大は理工学系が充実しているようです。というのも、そもそも首都大は都立大と都立科技大、都立保健大、都立短大が合併して誕生したもので、科技大と都立大理工学系との融合で、割としっかりした学問をやっているそうです。
申し訳ないですが小生は理系に知り合いが殆んどいないので、この程度の情報しかありません。

今何より申し上げたいのは、自信を持ってほしいということ。模試の判定なんてあまり当てになりません。小生なんて地理Bの過去問やセンター模試で90点以下を取ったことが一度もなかったのですが、当日なんと68点でした。しかし、直前に2時間だけ勉強した政経が奇跡的に88点、何とか救われました。都立大にも、最下位で入学しましたから。
なので、小生としてはごんさんが第一志望に果敢に挑戦され、花開くことを心より祈念しております。では、頑張って。
by (2006-01-06 00:25) 

俺

↑の続きはこちらへ
http://blog.so-net.ne.jp/metro/2006-01-06
by (2006-01-06 00:38) 

俺さんの記事を読んで、「あーーー・・・役人って、こうだよねぇ・・・。」としみじみした次第です。
私の職場でも、トップダウンでいきなり「ひきこもり専門の係を作れ!」とか、解散・総選挙があったおかげで先延ばしされていた、「自立支援法」を4月からどうにかしろ!とか色々といわれて、現場の人間のことを全く考えていないのが、お役人って感じがします。
一番迷惑を被るのが、障害者の方々、というところに悔しさとやりきれなさを感じます・・・。
by (2006-01-08 02:44) 

ご挨拶が遅くなりました。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします!

あら、ヨン様に戻ってる(笑)
by (2006-01-09 01:39) 

俺

コメントありがとうございます。
どうもお役人はトップダウンがお好きのようですね。
困った困った。


ヨン様に戻しましたが、如何でしょうか…正直、どっちでも良くなってきました。
by (2006-01-09 23:05) 

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