■『そうかもしれない』/耕治人 [書評]
というわけで、映画の原作であるこの本を読んでみた。
★そうかもしれない
耕治人 講談社
1988/04・第一刷発行
この本はまさに映画の話の通り、老夫婦のいよいよ晩年を迎えての体や心の変化を
綴った話で、日常をそのまま切り取っている。
映画では客観的に老夫婦の日常を描いていたが、本は男性(ご主人)が日記のように
思いを綴るという形式で進められている。まさに私小説である。
本では「そうかもしれない」「どんなご縁で」「赤い美しいお顔」の3作が掲載されているが、
映画はまずはまだ元気な頃の老夫婦の日常があって、次に変化が起きて「どんなご縁で」
に載っているような話があって、最後に「そうかもしれない」がある、という流れになっている。
個人的には、これを映像化したことは大変素晴らしいことだと思った。
本で読むだけではおそらく小生のような人間はただただおじいさんの身の上話を聞いている
感じで、イメージがし辛いのだが、映画ではとても入り込んで考えることが出来た。
「身寄りのない老夫婦2人の老後生活の大変さ」というのは、
いくら口で福祉やらサービスやらを叫ぼうとも、こうした作品を見ないと本当の辛さというのは
身をもって理解することはできないんじゃないかと思う。
勿論なんでもない日常の風景、会話の楽しさもあるのだが、込められたメッセージは
強く訴えかけてきた。
夫婦の様々な会話を見ながら、奥さんから発せられる言葉に重みを感じた。
子孫がいなくて身寄りのない老夫婦二人の生活、高齢化、老後、介護、そして
痴呆によって段々と変わり果ててゆく妻…
あまりにも実感の湧かないテーマだったのでイメージすることのできなかった問題を
身に染みて感じるとともに、自分の祖父母に対してのイメージ、電車の中で向かいに
座るおばあさんの背後というものについて、見方ががらっと変わってしまった。
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