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真っ赤な建物と景観法 【シリーズ・景観法⑥】 [主張-学問]

先週の金曜、珍しく早く帰宅したので夕方ニュースをザッピングしていたら、
TBSでこんな問題を特集していた。
「皇居周辺に赤いビル出現!景観権巡り住民困惑」
景観の問題をかじった人間として、僭越ながら思うところを述べたい。

※なお、実際議論をしていく上で写真を載せたいのですが、勝手に拝借するわけにも
いきませんし、というか、拝借しようにもちょうど良い写真が見当たらなかったので、
近々現地に足を運んで撮ってきます。それまでは、イブニング5のページや
イタリア文化会館のページなど、リンク先の写真を各自ご覧ください。


はじめに、景観法ってなんぞや??と思われた方、小生が書いた過去の記事をご参考に
各自お調べいただけたらと思います。
景観法① 景観法とは?
景観法② 銀座と皇居周辺の事例
景観法③ 景観法の功罪とこれから
景観法④ 下北沢再開発問題を考える
景観法⑤ 六本木の事例からシモキタ再開発を考える

では本題に入ると、小生の率直な感想としては、この問題がテレビで取り上げて
騒ぎ立てるほどの問題なのかということが疑問でならない。
一口に景観法をめぐるトラブルといっても、様々ある。マンションの高さが…とか、ドハデな看板が…とか、古い建物をむやみに取り壊すな…等々色々あるが、今回のケースで言うと、
「赤が派手すぎる、皇居周辺の穏やかな街並みにはそぐわない」ということが焦点となっている。
残念ながらこうした見た目に関するクレームというのは対処が難しいのが実情であろう。

ただ、赤い色が反射することによって室内が真っ赤に染まる…ということについては、
住民にとって迷惑であるかもしれない。これは「光害(でしたっけ)」として認められるかもしれない。
いわゆる新しい権利、環境権が絡んでくるのだろう。

勿論イタリア文化会館も唐突にこんな真っ赤な建物を建てたわけではない。
改築の際、そこが美観地区に入っていることもあり、千代田区と9回にわたる入念な
協議を進め、GOサインをもらって建設したのだという。実際、番組内でインタビューを
受けた区の担当者は「当初の案よりだいぶ落ち着いた色彩になっている」と話していた。

壁面が赤く塗られた建物に対し好感を持つか嫌悪感を持つかは、人それぞれ、好みの問題
であろう。神社仏閣のド派手さは昔からあるし、赤が日本人に馴染まないとは思えない。
何より、クレーマーたちがどこでどう勘違いされたのかわからないが、彼らイタリア人は決して
ケンカを売るつもりであのような建物を建てたわけではない。イタリア人にとって情熱の色である
赤を使ったということ、日本に対して、千代田の美観に対して、敬意を表したのだと説明している。

あんなものに比べたら、神保町の古本街に突然現れる某チケットショップ(今はなくなった)の
オレンジの看板の方がよっぽど景観に対してミスマッチだと思うが、読者の皆さんは
どうお感じになっただろうか。

小生がここではっきりとしたことを言っていないのは、結論として
こういう個々人の主観、感性に基づくクレームというのは処理しがたいのではないかと
思うからである。いや、むしろ目くじらを立てる必要などないんじゃないかと思っている。
ネオンが乱雑する街があるとしたら、それは時代の流れであり、人々の需要が集束した
結果なのだから、そのまま受け止めるしかないだろう。
それを統一しようとする動きがあったとして、果たしてどのように統一していくのか。
人間一人ひとり異なる感性を統一するなど不可能であり、ましてやこういった外国の方の
集う空間として存在する建物に対して「日本にいる以上日本人の感覚に合わせろ」などと
言うことがあるとしたら、それは危険なことである。

大体、未来永劫に続くものなど無い。景色というのは時代の変化と共に日々刻々と形を
変えていくものであり、自然に淘汰されていくものではないか。
だから、もし美しい情景、古き良き街並みがあるとして、それを残したいと思う人々がいれば、
その人々の重い思いが景色を守っていくだろうし、なくなってしまうとしたらそれだけ
人々から愛されていなかったということだろう。おかしな景色など長い目で見ればすぐ
消えてしまうだろうし、そうじゃないとしたらそこに何かそのミスマッチな景観を維持せざるを
得ない理由があるのだから、それを読み取っていかなければならない。

このイタリア人の思いが詰まった文化会館、それへ嫌悪感を示す地元住民、
長い目で見ればいつの日か異文化を理解できる日が来るかもしれない。
勿論、それはお互いにということだ。イタリア側が日本という風土へ理解を示して赤をなくす
かもしれないし、千代田区民がイタリア人の情熱に理解を示して赤を受け入れるかもしれないし、
第三者である我々は、長い目でことの成り行きをそっと見守っていくしかないだろう。

最後に、この問題に関連するリンクを下記に掲載しておくので、ご興味を持たれた方は
是非ご参考の上「後追い取材」を続けていただきたく思う。

◆TBSニュース・イブニングファイブ 特集ページ
◆イタリア文化会館ホームページ
◆国交省ページ内、千代田区の美観地区に関する記述
◆千代田区・美観地区ガイドプラン
◆参考記事Ⅰ 「名指された「消費者金融」「紳士服」などの看板」(ブログ・千里山一里)
◆参考記事Ⅱ 「千鳥ヶ淵で景観論争 赤色のイタリア文化会館 住民は色の塗り直しを求める」(ブログ・越澤明と都市計画)


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コメント 13

えいこう

こんばんは。
まさに個々人の主観、感性の問題であり、是非を問うのは難しいですよね。お互いの感情がもつれると厄介です。
しかしおっしゃる通り、第三者がとやかく言える問題でもないですし。いい方向へ収束するよう、見守るしかないようですね。
by えいこう (2005-10-16 01:05) 

らがー

 これは難しい問題ですね.イタリア側の言い分もわかりますし,住民の戸惑いも理解できます.
 
 でもイタリアに対して文句を言えるほど,日本国民は景観を大切にしてきたのでしょうか?これが論点にならなければいけないと感じています.

 毎度のことですが,自分たちが行ってきたことを棚に上げて,他人を批判するのはお門違いですね.
by らがー (2005-10-16 08:54) 

泉河潤一

「一文入魂、行間無限」の教えに忠実に、責任ある表現に努めたい」という志にふさわしい、緻密で誠実な文章だと思いました。
by 泉河潤一 (2005-10-17 04:54) 

okko

俺さん お早うございます。
今の東京、景観云々と苦情を言える状態でしょうか。奇抜な形のビルの林立、わけの分からない、孫悟空が乗る雲みたいな某ビール会社のシンボル、大都会、それも首都としての調和した街作りは無視されているようです。皇居付近だけはやはり特別扱いって、住民って、夜になっても誰かが住んでいるのでしょうか。早速、お勧め頂いたサイトを全部見ました。いいんじゃないですかね。
違和感はありませんでした。
何よりも、あの辺りまで出かけることが殆どない私が、イタリア文化会館の存在を知ったのは大収穫。講座や催し物も沢山あるみたいで、今度、天気のいい日に出かけて、実物を見てまいりましょう。
by okko (2005-10-17 09:44) 

ももず

ご訪問ありがとうございましたw
そうですね、日本人全体としては
景観うんぬん言える民族か?と思わざるをえません。
イタリアの各都市に比べて乱雑なこと・・・
看板、電線、街頭CMのない都市に住みたいです。
イタリア文化会館が浮いてるかどうかは
一度目で見てみたいですね。
by ももず (2005-10-17 17:02) 

メイ

TBSニュース・イブニングファイブの写真を見る限りでは、そんなに浮いてる感じではないですが・・
あの地域、美観地区指定なのですか?
むむぅ・・。
むしろ隣のビルの、美しくない姿(良くある普通のカタチ)が許されて何故問題に?といった感じ。
皇居前ってコトが問題なんですよね?きっと。
でも、日の丸だって白地に赤だし。
真っ赤には見えなかったなぁ(ちょっとくすませてる感じですよね?写真を見る限りでは)
率直に言って、写真を見る限りではイタリア文化会館を除いても、美観を考えている土地には見えませんでしたけれど。
時間があるときに、私も実際はどうなのか、自分の目で見てこようと思います。
by メイ (2005-10-17 22:15) 

俺

こんばんは。皆さん貴重なご意見ありがとうございます。勿論いつもいただけるコメントはありがたいのですが、今回はいつも以上に感謝しております。
というのは、これについて皆さんはどんなご意見を持たれているのかなぁと気になっていたからです。ここにコメントいただいた方もそうですし、この件について書いていらっしゃるブログ記事も共通して多数派を占めていたのは、やはり「日本人は今まであんまり景観なんて気にしてこなかったのに、今さら何を」という意見が多いですね。これはとても興味深かったです。
過去の反省を含めて、今これからどのように街づくりを進めていったら良いのか、こうした事例がきっかけでより多くの人が関心を持てるようになれば、それだけで状況は全く変わってくるんじゃないかと思います。
医学的に人体に影響を及ぼすという点で認められた公害などに対する権利、これすらが「新しい権利」と呼ばれてまだ時間が経っていないわけですから、「住み心地」「見た目」といった見地からの景観権という議論はまだまだ始まったばかりで、すぐに結論は出せないでしょう。しかし、多くの人が快適に生活を送れるためには、しっかり考えていかなければいけない問題ですよね。

ところで、小生もこの問題をニュースで聞くまで「イタリア文化会館」なる所の存在を知らなかった一人です。このイタリアに限らず、諸外国との文化交友が手軽に出来る場というのは貴重なものですから、もっと広く情報を得られるよう宣伝してほしいですよね。
by (2005-10-17 23:30) 

stickman

お邪魔致します。
こんな問題知らなかったです。そもそも景観は誰が決めるのかという問題の根拠に皇族精神を持ってくる辺り、基準の無い情緒というものの不条理な力を感じます。

トマトレッドの建物、別に良いじゃないかと思いますけどねぇ。緑に映えますよ。もちろん、光害が実際にあるなら見直すべきだと思いますけれど。
そもそも、皇居周辺って綺麗なところだと思ったこと無いんですが…
汚いコンクリートの建物と排気ガス撒き散らす車の大往来。
皇居の堀周りでジョギングでもしたら、発ガン率ア~ップしますよ(笑)
by stickman (2005-10-19 08:47) 

俺

こんばんは。確かに小生も個人的にはいいんじゃないかと思うんですけどね。しかし「見苦しい」という苦情については主観ですからねぇ。それを一概に否定することも出来ないでしょうし、かといって何でもかんでも言われたままにやっていたらきりがないでしょうし…難しい問題です。

ちなみに小生、高2の冬に皇居駅伝に出場したことがあり、お堀の外周コースは大体どんな感じの景色か記憶に残っております。
by (2005-10-19 22:45) 

素町人@思案橋

 突然で恐縮ですがご招待です
 「国立市/マンション/景観」に関するクイズを作りました。
 お近くへおいでの節は、どうぞ拙宅へもお立ち寄り下さい
→ http://blog.q-q.jp/200512/article_99.html
(ご迷惑でしたら、お手数ですがコメント、TBの削除をお願いします)
by 素町人@思案橋 (2005-12-20 10:34) 

俺

突然ですね…ま、でも面白いので良しとしましょう。
そういや国立裁判の判決でたんですよね。最近ニュースを見る機会がまるでなく、完全に時代から取り残されてます…
by (2005-12-25 19:04) 

メイ

俺さま:
先週末に実際にイタリア文化会館見てきました。
記事にリンクを張りました。
事後報告で申し訳ありません。
問題がありましたら、ご連絡下さい。
TBしますが、もし問題がありましたら、削除下さい。
by メイ (2006-03-30 22:31) 

俺

記事拝見しました。取り上げていただきありがとうございました。問題ないっす。

ちゃんとしたコメントはそちら様の記事の方へ書かせていただきましたので、こんなんで失礼。
by (2006-04-02 18:39) 

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