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この国のどこかで、輝く可能性を持つ全ての人へ 【下】 [主張-ひと]

昨日の続き。

ダイエーの新会長・林文子氏をご存知であろうか。
林氏は我が母校の出身者ということで、実はこのブログをはじめた初日に少し触れているのだが
(あ、福知山線事故の記事でも書いてますね。)
改めてこの人の凄さを紹介したい。

林氏は、元々BMWの社長をやっていた方だ。社長をやっていた方…さらっと書いたが、
そこまでには長い苦難の道のりがある。
林氏は、高卒。最終学歴・都立青山高校で、車の販売業に従事する一社員であった。
しかし、彼女が飛躍するきっかけとなったのは、車のセールス台数で記録を打ち立てた
ことであった。
車のセールス…それは営業だ。まして、車という高価な商品。そう簡単に契約を取れる
ものではない。
それを、一般的な価値観で語るなら不利とされる「女手」一つで、林氏はどのように
売りさばいたのだろうか。
彼女は決して、押し売りをしたわけではない。巧みに数字や特典をちらつかせたわけでも
ない。彼女は、客の立場に立って、対話を試みた。
時に、その家族の内面に踏み込みもした。時に、「この車は実は…」と、自分達にとっては
不利益になる情報も話した。ショールームで結婚式!という驚きのイベントも企画した。
兎に角客の立場に立って、客のために車を紹介し、心地よい営業を心がけたのだ。
これにより、林氏は車の売り上げ以上に信頼を重ねていったのだ。
こういう手法は現代においては「非効率」の一言であしらわれる。しかし、彼女の信念は
強いパワーとなって、効率とか売り上げ至上主義といった「常識」を超越したのだ。
そう、「常識を超越した非常識」となったのだ。
とにかく彼女は「人」を大事にする。それはダイエー会長となった今も健在である。
今までのダイエーは、「電気代を下げてコストダウンせよ」と売り場の照明を暗くしていた。
しかし、林会長は「売り場が暗いと活気もなくなるしお客さんは品物がよく見えない」と、
照明を明るくさせた。これだけではない。様々な「現場の細々とした」改革を着実に
進めている。
そして、「従業員が働きやすい環境」も重視。さらには、自ら売り場に立ってPRをしたりと、
積極的に「人の笑顔があふれる売り場」を、キャッチコピーではなく実践的に取り組んでいる。

さて、また身内話になって恐縮だが、前回のような経緯があって、母は服の販売を始める。
パート従業員は何人もいるのだが、それぞれ自分の客を持たないと、生き残れない
システムになっている。
自分で接客し、レジまで連れて行き、会計をさせてそこに自分の名前を打ち込んだところで、
初めて「売り上げ」がカウントされる。この売り上げが多い人ほど、給料が良くなる仕組みだ。

この企業は某大国のビジネスモデルを日本に輸入したチェーン店なのだが、兎に角その
システムがひどい。「人」というものを徹底的に無視している。
兎に角売り上げ至上主義だ。自分の給料に反映されるとなれば、従業員は皆真面目に
必死に客を取ろうとし、その努力の結果店の売り上げも上がるだろう…という単純バカな
発想だ。
これによりどういう事態が生じるか。金儲けをしたい従業員は、何が何でも服を売ろうとする。
似合ってなかろうがサイズが多少合ってなかろうが、「お似合いですね~」「あ、この服もどう
ですか??」などと、次々に買わせる。そして、ひどい従業員は、他人の客を横取りする。
例えばAさんが一人の客にずっとついて案内をしていたとして、ふとした隙に他の客に
呼ばれたり、裏方の仕事があったり、店長に呼ばれたりとしてその客から離れる。
すると、金儲け命のBさんが現れて、その客を横取りし、レジまで連れて行ってしまうのだ。
さらに、Bさんは何人もの客を同時に掛け持ちし、一人に試着させておいてもう一人に
服を紹介したり…と、何とも不誠実な接客を行っているのだ。
さて、我が母はどんな接客を行ったか。もう言うまでもないだろう。
ただ、もっとひどいことがある。
服屋だから、客が試着して買わなかった服は、だらしなく広げた状態で元の位置に
戻される。それを放置しておくと、他の客は不快に思うから、当然従業員はそれをたたんで
また元の状態にする。あるいは、新しい服が入荷されると、裏方で開封したり並べたり
ハンガーをまとめて処分したり…と、地味な仕事がある。さらに、店内の掃除もある。
これを、前述した金儲け従業員は一切しない。そりゃぁそうだろう。いくら地味な仕事を
したところで、売り上げが低ければ評価されない。だから、この従業員は常に接客ばかり
行っている。そして、自分が散らかした服はたたまない。それは黙っていれば誰かが
やってくれるだろうと思っているのだ。
母はある意味効率が悪い人間なので、こういうだらしない状態が嫌いだ。だから、
きちんと後始末をしてしまう。そんなわけで、きょうもこの店は運営できているのだ。
そんな裏方の重要性を、当然上の人間が知るはずもない。「あら、今月も売り上げ
低いですねぇ。何をサボってるんですか??」となる。不条理な世界だ。

さて、色々あって…母は仕事を変えた。またしても50歳間近にして就職活動を
行ったわけだが、前回厳しかったのに今回が厳しくないはずはない。いっそう
年齢の壁は高くなっている。「未経験者可」「簡単な仕事」と書かれていても、
年齢で一発アウト。面接すらやってくれない企業も少なくない。
あきらめかけた6月、息子が持ってきた無料の求人誌から探して、幸いにも
一社引っかかった。お蔭様で今はそこに事務職として通い始めたのだが、
前述の服屋の店長は、なかなか母を辞めさせようとしなかった。
そりゃぁそうだ。上の人間は知らないだろうが、店長は知っている。
母のように、評価対象にならない裏方の後始末を好んでやる人間はそういない。
でも、そういう人間が一人いないと、店は成り立たない。

そんなこんなあって事務職に就いたが、それでもまだ本望ではないだろう。
いつかの「勉強したい」という夢もきっと忘れていないだろうし、今の職場では
周りの若手が無能人ばかりで何の刺激にもならないそうだ。
ただの稼ぐための仕事になっている。果たしてそれをする必要があるのか。
世の中は、このような人間が埋もれたままの現状に危機感を感じないのか。

昨日紹介した東京新聞記事だが、皮肉なことに、同じ日の一枚めくった31面には、
「郵政資料・『主婦・高齢者はIQ低い』」との資料が暴露されていた。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20050705/mng_____sya_____007.shtml
http://blogs.dion.ne.jp/verfassung/archives/1408578.html
これがこの国の現状を物語っていると言えよう。

決してきれいごとではなく、心底一番重要だと思える。肝腎なのは、「人」だ。
個々の皆異なる人間が、ただの学歴・年齢・性別で振り分けられてロボットとして
働かされているこの世の中の現状は、異常である。難しい経済用語も数式も
一つの要素であって、唯一無二の正解なんかじゃない。

何度でも言いたい。声を大にして言いたい。肝腎なのは「人」だ。早く気づいてほしい。


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俺

ダイエー林文子会長について詳しく紹介しているブログを発見しましたので、紹介させていただきたく思います。興味のある方、読んでみてください。

http://blog.goo.ne.jp/satonaoaki/e/6e9f4003755767c1e8c5b79e1e5fb388
by (2005-07-13 00:20) 

えいこう

この一連の記事に、全くもって同感します。
俺さんの文章は、極めて論理的に、説得力を持って書かれているように思います。時には過激に暴走し、危なっかしく感じる事もありますが(失礼)。それを恐れない若さ(単に実年齢だけの意味ではなく)を、眩しくも感じます。
by えいこう (2005-07-13 01:28) 

俺

こちらにもコメントいただきありがとうございます。
お褒めいただけるのは本当にうれしい限りです。まだまだ至らない点は山のようにあると思いますので、危なっかしさも多々露呈してしまうかもしれませんが、今後も長い目で見ていただけたら幸いです。
「心の若さ」なのか「still green」なのか……
by (2005-07-13 06:35) 

田中ジロー

TVでも、視聴率だけで決めてしまったりと、世の中、金だけで決定してしまうところがあるようですね。だったらNHKの高校生の科学や数学はなくなってしまいますよね。1%以下ですからね。人間自体が楽な方へ行こうとするので、それを基準に経済活動があれば、本来、社会が進むべき方向とは異なってきますからね。それを軌道修正するのが、俺さんたち人類救世主の任務かもしれませんよね。人間の中心は理想ではなく、欲望が支配していますからね。だから、道路や郵政民営化の可否も、自分の選挙区の得票率可能性で判断してしまうようですね。物質文明化の経済大国よりも、豊かさの生活大国の方が、人間がより理解し合える社会環境を作るのではないでしょうか。またステキなお話しを、聞かせて下さいね。
http://www.geocities.jp/honneoyukai
田中二郎
by 田中ジロー (2005-07-14 01:49) 

なかなか内容の濃い文章で興味深く読ませていただきました。私も、現在ある企画を動かしておりますが、そこには、「女性」としての可能性を信じて行っております。この場合は、スポーツで一つの土台を作り上げた方々を日本の方々を組み合わせることを目指しております。私は「何々だから・・・」と先入観を持って取り組んだり、思うことは一番嫌いです。何故なら自分が昔そうであり、様々なチャンスを潰してきたからです。でも、そのおかげでそういった先入観を覆すことが出来ましたので、是非、色々な人にその価値を伝えていければと思います。是非、これからもこういった情報を発信してください。そして、ムーブメントを起こしましょう!長々と失礼しました。
by (2005-07-14 10:12) 

maplepancake

はじめまして。先日はTBありがとうございました。

>肝腎なのは「人」だ。早く気づいてほしい。

には、同感です。
ある一面だけで判断した方が選ぶ方もラクだから企業も「年齢○歳まで。大卒」なんて募集を出すのでしょう。

俺さんのお母様には是非がんばっていただきたいと思います。林会長のお話もそうですが、パワーのある方のお話は大好きです。
http://maplepan.exblog.jp/
by maplepancake (2005-07-14 12:12) 

お邪魔します。
良いお話ですね。
人の正しい努力を見ないような組織は早晩憂き目を見ると思います。
by (2005-07-14 21:43) 

stickman

初めまして、素晴らしいエントリーを拝見させて頂きました。
最も重要なのは「人」なのであり、システムへの盲従―数値の絶対化ではない、ということですね。
by stickman (2005-07-14 23:36) 

木下賢一

トラックバックありがとうございました。
俺さん(でいいのかな?)のプロフィールを見せていただき、この先が期待できる方と感じました。

俺さんは、実業家になられても成功するのではないでしょうか。
ぜひ、その知識を社会のために生かしていただければと思います。
どうも、ありがとうございました!
by 木下賢一 (2005-07-16 13:21) 

俺

皆さん、コメントいただきありがとうございます。
「物質文明化の経済大国よりも、豊かさの生活大国の方が…」というのは、確かにその通りだと思います。
マザーテレサが来日した時に「日本は貧しい国だ」と言ったことを、もう一度考えてみる必要があるのかもしれません。
世界的に見ても優れた科学技術を持ちGDPが高く物質が溢れんばかりの街角に、マザーテレサは何故「貧しさ」を見出したのか、ということですね。

また、「先入観によりチャンスを潰してきた…」これも共感できます。
一つ例を。あくまで小生が20年間生きてきて色んな人と接してきたという少な~い経験上ですが、学歴を過剰なまでに気にする人は2種類いて、それは、「東大生」と「三流大学生」です。これらだけで9割以上占めてるんじゃないでしょうか。
「東大生」というのは「大学がどこだろうと関係ないよ。大事なのは大学に入って何をしたか、何ができるかだ」というセリフを「東大生」という肩書きで喋りたがる性質があるようで、一種のブランド志向でしょうね。あとは「高卒」でいいのにわざわざ「東大中退」と書きたがる人も…
これに対して「三流大学」というのは、その大学が三流なんじゃなくて、その大学が三流大学だと決め込んで喋る、自身に愛着も自信もなければやたらと卑下する人たちのことです。
「どうせ俺なんて負け組ですよ~」なんて、そう言ってるから本当に負け組になるのであって、本気で打ち勝とうと思えばいくらでも払拭できるのに、それをしないで「どうせ俺は」「三流大学の俺に将来はない」なんて、肩書きのせいにして逃げたり挑戦することを怠っている、非常に「もったいない」人たちがいて、非常に残念に思います。

また、「パワーある方のお話」、そうですね。
実は結構前から群馬大医学部受験の55歳主婦の方とダイエー会長林文子氏の2名のご活躍が気になっていて、なんとかそれについて思うところを書いて、知らない人に教えたいという思いがあり、色々と試行錯誤した結果、我が母の事例でもってお二人のエピソードをつないでみました。

「人の正しい努力を見ないような組織は…」そうですね。
林会長なんかは本当に世間一般の常識では「無駄」「非効率」とされている手法を敢えて信念をもってやり続けて、それでいて世間一般の常識に即して動く人より高い成果を生んでしまっているのですから、本当に偉大な方だなぁと思います。
「システムへの盲従-数値の絶対化」、全否定はしませんがそれ一辺倒で語られている世の中の風潮に対し、敢えて否定から入って「それだけじゃないよ」と言いたかったのです。どんなことに対しても、常に「問い直す」という作業は重要なことだと思います。

皆さん、本当にありがとうございました。引き続き、ご意見お待ちしております。
by (2005-07-16 13:24) 

俺

追記。ダイエー林会長について詳しく紹介されているブログ、もう一つ発見しました。木下さん、差し支えなければ紹介させてください。(と言いつつ載せてしまいますが…事後承認的で恐縮です。)http://plaza.rakuten.co.jp/bizdog/diary/200507100000/

また、コメントありがとうございました。お褒めいただき大変恐縮です。「知識を社会のために生かせれば」というのは、小生程度の人間でできる任務かどうかわかりませんが、しかしながらそれくらいの意志を持って生きられたら素晴らしいことだなぁと思います。今は勉学途中の身で日々吸収し続けています。
by (2005-07-16 13:32) 

kochikika

コメント欄でははじめましてです。
林会長とは直接関係ないですが、林さんをダイエーにヘッドハントしてきた人の話をセミナーで聞くことが出来ました。
http://blog.goo.ne.jp/kochikika/e/92510845eb60519648cebbd84d0a9601
アメリカ流経営を学んだ人ですが、人を活かす経営という意味では通じるものを感じました。ご参考までに。。
by kochikika (2005-07-16 22:06) 

俺

記事拝見しました。疎い分野なので飲み込んで消化するまでにかなりの時間を要してしまいますが、じっくり理解していきたいです。
by (2005-07-17 23:53) 

はじめまして

今朝、テレビで林さんをはじめて見て、とても魅力的な方だなあと、感動し、ネットで検索したら、こちらにたどりつきました♪
肝腎なのは「人」ホント!共感できます。テレビでも経営戦略といっても、実行してくれる「人」が大事だとおっしゃっていられました。

これから、もっと林さんについて学ばさセていただきたいと思っています。
トラックバックちょうだいしていきます。ペコリm(_ _)m。
by はじめまして (2005-12-12 21:17) 

俺

いらっしゃいませ。当ブログではいろんなことを書いてますが、なんと言っても小生の母校の最も偉大な先輩である林文子氏については、これからも時々記事にするかもしれません。
そういや、つい先日三軒茶屋にコンビニとスーパーを融合し、三茶の居住層を徹底分析したまったく目新しいタイプのストアをオープンさせたそうで、こちらも注目ですね。
by (2005-12-13 00:32) 

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